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【慢性疼痛を取り巻く思考の罠】破局的思考から脱却し痛みを卒業する
慢性疼痛を抱える方々にとって、心理的な要素というのが痛みの持続や増悪に大きな影響を及ぼすことがあります。 その中でも、『破局的思考』という痛みに対する捉え方は痛みと密接に関連しています。 この記事では、破局的思考とは何か […]
Date: 2023/09/17 | Writer: 金田 洋一
昨今、SNSの発展によって腰痛をはじめとする「痛み」に関しての情報に触れる機会はすごく増えてきました。
しかし、その一方でそうした情報の中には痛みの慢性化を加速させてしまうような情報もあり、必ずしも適切とは言えない媒体・発信も数多くあります。
その中でも『腰痛』については特にそういった誤った情報が多く出回っていることがあり、際たる例が「姿勢が悪いから腰痛が起こる」といったようなものです。
この点については2020年に発表された“Back to basics: 10 facts every person should know about back pain”という論文の中でも指摘されています。
腰痛に関する誤った信念は、特に問題のない姿勢(例えば、猫背で座ること)や問題のない動作(例えば、背中を曲げること)を避けたり、意味のある活動(例えば、脊柱への負荷、身体活動、社会的活動、日常生活や仕事の活動)を避けるなど、腰痛をむしろ悪化させる行動へとつながる可能性がある。
また有益でない信念は、筋肉の固定を強めたり、「体幹」の筋肉に力を入れたり、ゆっくりと慎重に動くといった疼痛回避行動につながることもある。
さらに、症状を和らげたり(薬物療法、受動的療法、 注射)、姿勢の崩れを治したり(例えば、姿勢エクササイズ)、 損傷したとされる構造を治したり(例えば、幹細胞治療、 手術)するために、より生物医学的で侵襲的な介入を選ぶようになるかもしれない。
Back to basics: 10 facts every person should know about back pain
『猫背』と聞くと一見腰痛を悪化させるような姿勢であると認識されがちですが、実はこうした姿勢が実際に腰痛を引き起こすというエビデンスは存在しません。
このような誤った知識がなぜまずいのかというと、患者様本人の無駄な不安や恐怖を煽ってしまう可能性が高いからです。
故に、正しく腰痛に向き合うためにも私たち情報発信者は「分かりやすい」ものではなく「事実」を当事者の皆様にお伝えする義務があると考えています。
そこで今回は、従来から腰痛を悪化させるものとして誤解されがちな10個の要素についてお伝えしていきたいと思います。
ぜひ、最後までご覧いただき、抱えている腰痛に対して「そこまで神経質に考えなくていいかも!」と思っていただく一助になれば幸いです。
慢性的に続く腰痛があるからといって、それは生命を脅かすほどの病態ではありません。
もちろん一部には悪性腫瘍などの症状を示す腰痛もありますが、多くの場合深刻な状態でもなければ、一生付き纏う疾患でもありません。
適切にリハビリすることで改善するのでご安心ください。
年齢が増すにつれて腰痛が悪化しやすくなるというエビデンスは現在まで存在していません。
痛みの定義が2020年に約40年ぶりに改訂されましたが、その中で「組織損傷のみが必ずしも痛みを生み出しているわけではない」というのが明文化されました。
故に、腰痛についても組織が傷ついているから痛みが出ているという解釈をしてしまうと、例えば側湾がある方や滑り症がある方などは一生痛みに苛まれてしまいます。
世の中には、こうした組織や構造の変化があっても痛みがない人は沢山存在しています。
実は臨床ガイドラインを見ると、筋骨格系疼痛の診断と管理にMRIやCTを使用しないよう勧告されているんですが、実態としては腰痛で来院する患者さんのほぼ全員がMRIやCTを撮るケースがほとんどです。
「痛みがある運動は避けること。安静にしなさい、それで痛みは寛解します。」
これは何年も言われ続けていますが、超急性期以外の痛みについてこの事実は全くありません。
むしろ、安静にすることで痛みの慢性化が加速する可能性が高まります。
姿勢と腰痛の関係についてもこれまで何度も擦られ続けている概念の一つです。ですが、現在において特定の姿勢が必ず腰痛を引き起こすというエビデンスはありません。
最適な姿勢が存在することや一般的に「正しくない」と言われる姿勢を避けることで腰痛が予防できるという強い証拠はない。(Slater D,2019)
“Sit Up Straight”: Time to Re-evaluate
腰痛の時は体幹トレーニングというようなイメージが強いですが、体幹筋が弱くなることで腰痛が引き起こされるというエビデンスはありません。
「脊柱は脆いから腰痛が起きやすい」というのもよく言われますが…
“脊柱はもろくなんてありません”
このように脊柱は脆いという概念が浸透することで、コルセット等で腰を過度に保護してしまうことの方が腰痛の慢性化を加速される可能性があります。
痛みの再燃は、構造的な損傷というよりも、身体活動の不足やストレス、気分の変化に関係するため、必ずしも組織損傷のみがその原因にはなりません。
腰痛に対する効果的な治療介入というのは、とてもシンプルかつ安価に行えるものです。
痛みに対する捉え方や、身体的・精神的健康を最適化するためのコーチング(身体活動や運動、社会活動、健康的な睡眠習慣や体重の維持、就業継続など)が含まれます。
以上が、従来から唱えられてきた腰痛に関する10個の誤解です。
案外、よく目にする情報によって誤った痛みに対する信念や概念が形成されてしまうことがあるため、発信者は今一度正しい情報の精査を、閲覧する方は情報発信者の経歴や実績、情報の根拠などをよく確認するようにしましょう。
1994年:大分県生まれ/2017年:国家資格(理学療法士)取得後、福岡リハビリテーション病院へ入職/2018年:イタリア(サントルソ認知神経リハビリテーションセンター)へ研修参加/2018年:『きんたろーブログ』開設/2019年:うちかど脳神経外科クリニックへ入職/2020年:グロービス大学大学院(経営学修士課程)へ入学/2021年:脳と脊髄リハビリ研究センター福岡を創業・代表へ就任/2021年:福岡リハビリテーション専門学校 非常勤講師へ就任/2022年:グロービス大学大学院修士課程(MBA)修了/いたみ支援メディア「ペインと。」監修