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【痛みの定義が40年ぶりに刷新】“痛み”は怪我をした時だけに起こるものではない

Date: 2023/07/09 | Writer: 金田 洋一

多くの方が抱える「痛み」には実は定義がありまして、国際疼痛学会(IASP)という団体が示しています。

最初に痛みの定義が作られたのは1974年、今から約40年前になります。

のちほど述べますが、当時の定義には「組織損傷に結びつく」と、外傷をはじめとするような“怪我”が生じることによって痛みは生まれるとしています。しかし、この痛みの定義。実は2020年に初めて改変されました。改変された理由は様々ですが、一つは時代の進歩とともに研究技術が向上し、その結果として痛みのメカニズムが以前よりもかなりクリアになってきた。というのが挙げられます。

そこで今回は、「痛みの定義がどのように変わったのか」そして「新しくなった痛みの定義のポイント」について解説していきたいと思います。ぜひ、最後までご覧いただき、少しでも痛みという難敵に挑むための武器(知識)を手に入れていただけたらと思います。


【痛みの定義が40年ぶりに刷新】“痛み”は怪我をした時だけに起こるものではない
1.痛みの定義〜1974年版〜

まずはじめに、1974年当時一番最初に作られた痛みの定義を改めて抑えておきたいと思います。

実質的または潜在的な組織損傷に結びつく、あるいはこのような損傷を表す言葉を使って述べられる不快な感覚・情動体験である。

国際疼痛学会.1974

ここで重要なのは、「実質的または潜在的な組織損傷に結びつく」という一言。これは、先ほども述べたように「明らかな外傷等をきっかけに痛みというものは発生しますよ」と定義しています。

そしてもう一つ重要な点。それは、痛みというものは「不快な感覚・情動体験である」ということです。

つまり、痛みというのは「本人がどう感じているか」という超主観的な世界であり、他者がその痛みを本人と全く同じ程度で推し量ることができないということです。

分かりやすくいうと、体重40kgといえば「あぁ、このくらいね。私も一緒だ」とその量を共有することが可能ですが、「痛みの強さがこれくらい」と言われてもそれは人によって感じ方が異なるわけです。だからこそ、痛みというのは「他者に理解されないことがある」という側面を持っていたりします。

2.痛みの定義〜2020年改訂版〜

それを踏まえた上で、約40年ぶりに更新された新しい痛みの定義を見てみましょう。

実際の組織損傷もしくは組織損傷が起こりうる状態に付随する、 あるいはそれに似た感覚かつ情動の不快な体験

国際疼痛学会.2020

ここで重要なポイント。

それは、当初記載されていた「実質的または潜在的な組織損傷に結びつく」という文言が削除されたことです。つまり、痛みというのは「明確な組織損傷がなくとも起こりうるんだ」ということがここに定められたわけです。

これ、何が重要なのかというと…特に慢性疼痛でお悩みを持つ多くの方は

・別に大きな外傷が生じたわけでもないのに痛い

・怪我をしたのは数年以上前で患部は治っているのに痛みだけ残っている

というように、組織損傷の程度と痛みの強さがリンクしないケースというのがあるのです。

3.以前は仮病扱いされてきた…

痛みが「明確な組織損傷がなくとも起こりうるんだ」ということが定義上明らかになったことで変わること。

それは、「正体不明だが本人は間違いなく痛みを感じている」ということが明らかになったことです。

というのも一昔前には、明らかに組織損傷がないにも関わらず痛みを訴えている人に対して

「あの人は仮病だわ」や「心配して欲しいから痛いと言っているんだ」というように、第三者から見た時身体に明確な損傷がなければ「痛みは仮病」もしくは「心の病である」といった烙印を押されることがあったのです。

しかし、先ほども述べたように痛みというのは本人の中だけでしか体験できないものなので、本人が感じている痛みは紛れもない“事実”なのです。だからこそ、国際疼痛学会という痛みに関する中枢機関が「痛みというのは明確な組織損傷に基づくものとは限らない」と言った声明を出したことは非常に大きな進歩です。

4.慢性疼痛を患っている方が少しでも救われるように

私自身、2020年の痛みの定義を機に”痛み”で悩む方が一人でも多く救われるきっかけになればと思っており、それは一般の方の認識はもちろん、私たち医療従事者もそうだと考えています。

身体に明確な損傷等がないにも関わらず痛みを訴えている人を、医療従事者が「不定愁訴だ」と目の前の問題を放り投げている場面を何度も見かけたことがあります。

これは、同業者として非常に恥ずかしく、痛みを患っている皆さんに本っ当に申し訳ないと感じています。今こそ、すべての人が「痛み」に対する認識を少しずつ変えていくことが、今後の痛み治療の前進につながっていくと思います。


最後に

何度も言いますが、痛みというのは理解されにくいんです。

時には、家族にさえ見放されてしまうといったことがあるんです。

だからこそ、まずは私たち医療従事者が一番に寄り添うこと。

痛みを患っている方を一人にしないこと。

そのために、この「ペインと。」を大いに活用していただきたい。

それが、私の願いです。

yoichi kanada

Writer: 金田 洋一 yoichi kanada

1994年:大分県生まれ/2017年:国家資格(理学療法士)取得後、福岡リハビリテーション病院へ入職/2018年:イタリア(サントルソ認知神経リハビリテーションセンター)へ研修参加/2018年:『きんたろーブログ』開設/2019年:うちかど脳神経外科クリニックへ入職/2020年:グロービス大学大学院(経営学修士課程)へ入学/2021年:脳と脊髄リハビリ研究センター福岡を創業・代表へ就任/2021年:福岡リハビリテーション専門学校 非常勤講師へ就任/2022年:グロービス大学大学院修士課程(MBA)修了/いたみ支援メディア「ペインと。」監修

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