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CRPSに対するミラーセラピーの効果について分かりやすく解説

Date: 2023/05/18 | Writer: 金田 洋一

慢性的な痛みは、日常生活に大きな影響を与え、その結果として生活の質(QOL)を低下させることがあります。

数ある慢性疼痛の中でも、複合性局所疼痛症候群(CRPS)は、外傷や手術などをきっかけに発症し激烈な痛みを伴う疾患の一つです。

CRPSの治療は個々の症状や程度によって異なりますが、ミラーセラピーという非侵襲的な治療法が一部の患者に効果的であることが示されています。

そこで、本コラムではミラーセラピーの概要、CRPSに対する効果、そして限界点と代替手段について解説します。

痛みに苦しむ皆さんにとって、この記事が新たな治療法の選択肢として参考になれば幸いです。

CRPSに対するミラーセラピーの効果について分かりやすく解説

ミラーセラピーとは?

まず、「ミラーセラピーとはなんなのか?」から少し説明させて頂きます。

ミラーセラピーは、脳内における神経回路の回復を目的とした非侵襲的な治療法で、脳卒中や慢性疼痛(CRPS)、四肢切断後の治療法として用いられることがあります。

「脳内における神経回路の回復」とは、分かりやすく言うと脳が疼痛を感じるような情報を上書し痛みの改善を図ることと言えます。

脳卒中であれば、これが直接運動機能の回復に一役買ってくれたりしています。

CRPSに対するミラーセラピーの効果

ミラーセラピーの効果は個人差がありますが、いくつかの研究がCRPS患者において疼痛軽減に役立つことを示しています。

例えば、McCabeは2003年にCRPS患者様に対してミラーセラピーを実施したところ、鎮痛効果が得られたことを明らかにしています。(McCabe et al,2003)

ただし、これには一つ重要な点があり、それはCRPS発症から2カ月未満の方であれば有効だが、慢性期においてはそこまで著効しなかったと言うものです。

また、そのほかの研究においても一部のCRPS患者様はミラーセラピーを行うことによって「逆に痛みが強くなる」と言う方も一定数いるようです。

このように、現在CRPSに対するミラーセラピーは随所で活用されることはあっても「有効な手段であるか?」と言われると「まだまだである」というのが現状のエビデンスとなっています。

ミラーセラピー単独よりも有効とされている方法『Graded Motor Imagery』

ミラーセラピーを行うと逆に痛みが強くなってしまうという方が一定数存在することから、オーストラリアのPTであるLorimer Moseley氏が開発したのが、『Graded Motor Imagery:GMI』という方法です。

Graded Motor Imageryは和訳すると『段階的な運動イメージプログラム』であり、その名の通り治療手段に『運動イメージ』を活用した方法になります。

この方法は、CRPSをはじめとする神経障害性疼痛の患者様の治療手段としてつくられたものなのですがその理由は…

CRPS患者様の多くは「患側の手もしくは足の動かすイメージができない」と、運動イメージの障害を抱えているからです。

そのため、この方法では3段階の運動イメージプログラムを通してCRPS患者様の脳内プログラムの正常化を図ることを目的としています。

GMIの詳しい方法などについては、こちらの記事で解説していますのでご興味ある方は併せてご覧ください。

詳細ページへ

CRPSに対するGMIの効果

CRPSに対するGMIの効果ですが、これは開発者のMoseley氏が実際に2004年に検証しており、その結果GMIを行うことによって、CRPSの解消につながったと報告する研究が発表されています。(Moseley,2004)

ミラーセラピーが効果的な痛みの種類

最後に余談ですが、実はミラーセラピーというのは効きやすい痛みの種類と効きにくい痛みの種類がありますので、その違いだけ解説します。

結論、ミラーセラピーは「深部に関連する痛み」には効果的ですが、「表面的な痛み」には効果的ではありません。(McCabe,2011)

深部に関連する痛みとは?

深部に関連する痛みを以下に一覧で示します。

・捻挫
・骨折
など

表面的な痛みとは?

表面的な痛みを以下に一覧で示します。

・かすり傷
・虫刺され
・火傷
など

このように、「痛み」といってもミラーセラピーが効果を示す種類は少し異なるので、この辺りを押さえておくと正しく治療法を選択することができるかと思います。

まとめ

ミラーセラピーはCRPSに対して実施される治療法の一つであり、一部の患者様にとっては痛みの軽減に役立つことがあります。

ただし、現状強いエビデンスにはないのが現状でありその効果にも個人差があります。

実施する場合には、担当医師そして担当のセラピストとご相談の上進めていけると良いのではないかと思います。

参考文献

1)A controlled pilot study of the utility of mirror visual feedback in the treatment of complex regional pain syndrome (type 1).Mccabe,2003

2)Graded motor imagery is effective for long-standing complex regional pain syndrome: a randomised controlled trial.Moseley GL,2004

3)Mirror visual feedback therapy. A practical approach.mccbe,2010

yoichi kanada

Writer: 金田 洋一 yoichi kanada

1994年:大分県生まれ/2017年:国家資格(理学療法士)取得後、福岡リハビリテーション病院へ入職/2018年:イタリア(サントルソ認知神経リハビリテーションセンター)へ研修参加/2018年:『きんたろーブログ』開設/2019年:うちかど脳神経外科クリニックへ入職/2020年:グロービス大学大学院(経営学修士課程)へ入学/2021年:脳と脊髄リハビリ研究センター福岡を創業・代表へ就任/2021年:福岡リハビリテーション専門学校 非常勤講師へ就任/2022年:グロービス大学大学院修士課程(MBA)修了/いたみ支援メディア「ペインと。」監修

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